2月20日にC1に到着した日の夜。もうすごい風が一晩吹き荒れ、テントのポールはぐにゃりと曲がり、テントごと飛ばされるかというほどでした。テントが飛ばされなくてもポールが1本折れるだけで、予定を変更せざる得なくなるので冷や冷やものでした。
1晩の風との格闘が終わり、朝を迎えましたが、さすがにC2にそのまま上がろうという体力は残っておらず、1日C1に留まることにしました。
日中は風もなく穏やかなのですが、また夜同じような風が吹き荒れるかと思うと、ちょっとげんなりでした。
同じ風が吹いたら中止にせざるを得ない。2人とも吹き飛ばされてしまう。
しかもKyokoさんの血中酸素濃度は60台後半。この時点で、C2に上がって寝るという選択肢は消えました。体力を考えるとここで数日順応するという選択肢もとりにくい。
唯一残っている登頂への可能性は、今晩C1を出て、長時間行動に耐える。それも天気がよければ、という条件付でした。
日中、そのことを相談し、夜2時に出発することにしました。
すると、、、不安材料が出てくる時は重なるもので、Kyokoさんが、
「ヘッドランプの接触が悪くて付かない。。。」と。
夜中出発なのでヘッドランプが付かないというのは致命傷。しかも、日本にいるときから接触が良くないのが分かっていたので、完全な準備不足です。仕方なく、私が後ろを歩き、2人分照らしながら歩くことにしました。
夜中、風が止むのを祈りながら、5時に就寝。本当にこのワンチャンスしかない。
6時、7時、8時。1時間おきに時計を確認して、風の状態を音で確認。なんだか昨夜と違って風が吹いていない。
9時、10時、11時、12時、1時。 結局一睡も出来ませんでした。
2時になっても風は吹いていない。寝袋から起き出し、いざ出発です。2時40分。
本当に山が迎え入れてくれているかのような、そんな状態でした。風はなく、星が明るく、気温も暖かい。
暖かいと言ってもマイナス20度くらいなのでしょうが、やっぱり風がなくておだやかなので暖かく感じます。
▲C1からC2へ。
4時間かかると思っていたC2に3時間半で到着。上出来です。呼吸は当然苦しいものの、まだ大丈夫。
C2からは風が少し出始めました。周りの山々より高い場所に出て、風をさえぎるものがなくなったから。いよいよアンデス山脈の最高峰への挑戦です。
C2から1時間ほど歩くと明るくなってきました。
そして7時ごろにC2から出てきた登山者が後ろに見えてきました。この時点では今日の先頭。
調子は悪くない。いや、むしろこれまでの状態を考えると完璧でした。
11時。アイゼンを装着する場所に出てきました。この時点で後ろから来た数人の登山者に追いつかれ、一団になって進んでいました。
「調子はどうですか?ここからアイゼンつけますが、まだ行けますか?」
「分かりません。呼吸が苦しいです」
「ここでもどったら悔いが残るでしょ!」
「そうですね。行きます」
すでに標高は6000mを越えています。Kyokoさんは生涯初の標高、私も久々です。
標高の高い場所の苦しさというのは伝えるのが難しいのですが、呼吸が苦しく、体がスローな動きになり、モチベーションがどんどんそがれていく、そんな感じです。
アイゼンをつけて、順調に上がっていく。その時点で、登頂しようとするグループは10人ほどの集団になってしまいました。昨夜C2にいた登山者の人数を考えると1/3程度その時点でまだ登頂を目指していたことになります。
Kyokoさんと私も、その集団の最後尾になってしまいましたが、なんとか登っていました。
アイゼンをつけた場所から1つ登りきると、いよいよアコンカグアの頂上が目の前にぱっと広がりました。ここからはグランカナレッタという岩場を越えて行きます。
はぁはぁ言いながら少し休憩。Kyokoさんは肩で息をしながら、何とか気力は保っていました。
グランカナレッタに入り、20分。2つめの急斜面を越えようとした時、Kyokoさんが転びました。もう足がふらふらでまっすぐ歩けない。
そこは、10年前に私が滑落した場所でした。斜面は30度を越えており、しかもアイスバーンで滑ったら下まで止まりようがない、そんな場所です。
転んだ後も、なんとか頂上を目指そうと、斜面の上側を私が歩き、肩を抱えながら数歩歩いたのですが、、、
限界でした。2時から歩き続けていて、すでに10時間を越えた行動時間と6000mという高度で体力は限界に達し、高山病の症状が出ていないといくら思い込もうと、気力だけで越えられない壁にぶち当たっていました。
「もうムリです。戻ります」
結局ご本人の判断でした。私も、これ以上もうどうしようもないもどかしさと、登頂はしていないのだけれど2人ともやり残すことなく全力を出し尽くしたという思いが入り混じっていましたが、これ以上登るのはムリだということは理解してました。
12時半。6700m地点で我々のアコンカグアへのチャレンジは完了しました。