私に××山は行けますか?というガイドへの無意味な質問

スポンサーリンク

私はガイドだから、お客様から「私は××山に行けますか?」という質問をよくされます。その想定がツアーの場合なら、シンプルに体力と技術だけの問題だから即答できます。自分のガイドの時ならば頭の中で即座にシミュレーションして、行ける/難しいの判断ができますし、難しい人はどんな経験や練習を積めばよいかのアドバイスもできます。他社ツアーだったり、自社ツアーでも自分のガイドじゃない時でも、一般的なガイドさんだったらどういう判断するだろうな、という想像はできます。

ただ、自分たち、もしくはソロで行く、となると話は別です。そもそも、それ以前の話として、その質問をする時点で「自分の山の実力の把握」「登山のシミュレーション」ができてないんじゃないかと思うのです。

スポンサーリンク

”ほぼ行ける”、と”何があっても対処できる”、には大きな乖離がある

平成30年の年間死亡者数/行方不明者数は342人。

年間登山者数が1,000万人弱ぐらいですから、確率で言うと0.003%。遭難まで含めても0.03%です。つまり、登山者のほとんどは事故を起こさずに下山してきています。この数字を減らすことはもちろん必要なのですが、山で見る、危なっかしそうな人の割合と比べるとあまりにも数字が小さい。ということは、危なっかしそうな人でもほとんどの人が何もなく下山してきている、ということになります。

数字遊びに意味はありませんが、平均的な登山者の100倍危なっかしい人でも、100回に97回は無事に下山するということ。それが危なっかしさを自覚する機会を奪ってしまいます。

つまり、危なっかしそうな人=事故起こす、みたいな単純な構図にはなっていないということです。もちろん自然が相手だから、完全にコントロール下、というわけにはいきませんが、ガイドのように何度も同じ山に行っていて、リスクを最小限に登山している場合も、無謀な登山をしている場合も、ほぼほぼ下山してきていることになります。

では、何が違うかというと、天候が変わったら、パーティーの誰かが足をくじいたら、誰かが何か忘れ物したら、予想以上に水量が多かったら、予想以上に暑かったら、そういった想定外のことが起こった時に、きちんと対処できるかどうか、だと思います。

そして、「私に××山に行けますか?」という質問をしていること自体、その山は初めてで、どんなことが起こっても大丈夫なほどにはシミュレーションしていないことになります。

その質問をしてくるお客様でも、ほとんどはその山に行っても何とか登ってくるでしょう。特に夏山ならば、周囲に登山者もいるし、小屋も開いていて、死なない程度の痛い目は合ったとしても、死亡事故に直結するような話ではないでしょう。ただ、その質問をする時点で、自分の実力で確実に簡単だと思えるほどには自信がなく、確実にシミュレーションしているほどには考えていない。そんな人に私が「行けますよ」と背中を押すことなどあり得ません。

パーティーの構成によっても全然違う

「私に××山は行けますか?」の質問の後は、「ソロですか?」と聞くようにしています。「えっ」とそれは想定してなかった、という表情をされることがほとんど。その前提条件がないと答えられないでしょ。

私は、登山の実力は個人単位ではなく、パーティー単位でのそれを考えたほうがいいと思っています。パーティー内でガイド的なベテランさんがいれば、極端な話ガイド登山とほぼ変わらないわけで、判断を任せてしまえば体力と技術だけの問題になります。友人と行くならば、何かあった時に判断を誰がするか、を考えておいた方がいいでしょうし、ソロならずっとハードルが上がるでしょう。

具体的な質問なら答えようもある

昔、「アコンカグアに登りたくて、アドベンチャーガイズのツアーを考えてるんですけど、それまでに行っておいた方がいい山はありますか?アコンカグアまでの練習ステップを質問したところ、今冬目指すのは厳しいのでは、とのご意見頂戴しました…。(中略) アコンカグアの前にエルブルースやモンブランを経験した方がいいのでは?というアドバイスを受けました。 モンブランで夏の雪山登山行って現実を知った方がいいですかね 」という相談を受けたことがあります。メインのツアー会社に問い合わせた後の、いわゆるセカンドオピニオンを求められた感じですね。

その時の私の返した内容がこれです。

「 まぁ、向こうも営業ですし、僕も知らない人からの質問で○○さんの登山歴だったらそういうと思います。 」

「 1) シンプルに雪山経験であれば、モンブラン行くよりは、日数の問題なので、日本の雪山で経験を増やすのがいいと思います。海外へのあこがれを除くと、エルブルースやモンブランの必要はなく、その倍の日数八ヶ岳行ったほうがいいでしょう。休みもお金も青天井ではないでしょうから」

「 2) アドベンチャーガイズ側が○○さんの経験というか体力とかそのあたりを知るため(こっちのほうが大事だとは思います)であれば、海外一つ参加しておくのはいいと思います。が、それってガイドが違えば結局同じでは、、、早めにアコンカグアに同行するスタッフ教えてもらって、その人との信頼関係築くのがいいかな、と。」

「 3) 標高の観点で言えば、モンブランもエルブルースもキリマンジャロより低いわけで、雪山経験とは別にそういうところ言っておいたほうが、ってのはシンプルに営業かな、と思います。あとは答えた人のステップアップへの呪縛かなぁ」

「 今冬でも来冬でもそんなに変わらないと思います。雪の上歩くのにそんなに傾斜の急な、前つめで立つような場所に行くわけじゃないですし、標高的な問題はおそらく問題ないでしょうし、天候との勝負だけだと思います。」

アコンカグアは一般的ではありませんし、この質問の場合には、ガイドツアーでの参加なので、個人登山とは違います。ただ、例として、この程度に、ある程度シミュレーションしたり問い合わせたりしたうえでの具体的な質問であれば答えられます。ただ、「私にアコンカグアはまだ早いですかね?」という相談とは違う、ということです。

私に××山は行けますか?××山なら大丈夫ですよね?と聞く前に

せめて、自分で行程調べて、パーティーの構成決めて、××人でどのルート使って、というところまでシミュレーションしてから相談しましょう。そうすれば、より精緻に答えられますし、うまいガイドの使い方だと思います。

ガイドに背中を押してもらおうとしないこと。自分がいくガイド登山なら、モチベーションを高めて二人三脚で歩めますが、自分の目の届かないところにいくお客様の背中を無責任には押せません。でも、応援してないわけではないんですよ。具体的な質問、相談であれば、優しく厳しく応えていきたいと思っています!

スポンサーリンク
登山の心構え
スポンサーリンク
atsushiyamaをフォローする
スポンサーリンク
経営と登山のあいだ
タイトルとURLをコピーしました