繁忙期の富士山が過度に簡単で、雪をかぶった富士山が圧倒的に難しいから伝えるのが難しい

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先日の投稿の富士山での事故の方、残念ながら遺体で見つかったようです。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20191030-00010020-abema-soci

亡くなられた方のご冥福をお祈りします。

改めて、雪をかぶった富士山が圧倒的に難しい、と思いました。何が難しいって、技術的に難しい、というだけではなく、その難しさを登ろうとしている人に伝えるのが難しい。

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そのギャップはなぜ起こるか

冬山は難しい、と認識している人を除くと、同じ山の夏山がベンチマークとなってしまうのでしょう。知っていれば全然別物だけど、知らなければ仕方ない。そして、その人たちの思考回路だと、夏山の富士山とスキー場のゲレンデの足し算、みたいな認識なんだと思います。もちろん、冬の富士山のベンチマークに夏の富士山、も間違ってるし、冬山、といったときにスキー場のゲレンデを連想するのも間違ってます。では、逆になぜ夏の富士山がそんなに簡単なのか。例えば、山登っている人の間では、富士山よりも北岳や槍ヶ岳や穂高岳の方が難しい、というのは常識的な話だと思いますが、なぜ、ってところまで深く考えたことはないんじゃないでしょうか。

私は、大きく3つあると思っています。

1つは小屋がやたらとあること。一番多く登られている吉田口なら、7合目に7つ、8合目に8つの山小屋があります。登るか下るかどちらか30分も行けば確実に小屋があり、その小屋への物資補給のためのブルドーザーも稼働しています。何か起こった時に、SOSを出す先があるのです。

もう1つは、人がやたらといること。これは、逆に落石等のリスクが高いという問題もありますが、やっぱり山の中、自然の中で一人、という状態よりは圧倒的にリスクが低い。夏の富士山で、迷うこともなければ転落して数日発見されないようなこともないのは、やっぱり人が多いから、でしょう。それに伴って道も整備されていますし。

最後に絶妙な高さ。

世界中の高山のベースキャンプって4,000前後に置かれることが多いんですね。8,000m峰だと5,000m弱になりますが、アコンカグア(6,960m)のBCは4,200m、デナリ(マッキンリー:6,190m)のBCも4200m、キリマンジャロの順応日も4,000m弱。つまり、4,000m前後で順応が必要になる人が多い。4,000mというのが、人間が超えるときに要注意な高さだ、ということを登山業界はこれまでの経験から学んできたのです。

富士山はそのちょっと手前の3,776m。私はガイドの時にこれを「みんななんらかの高山症状が出るけれど、高山症状単体で生死を分けるようなことはない高さ」と言っています。実際には高山病で登れない人もいますが、睡眠不足や、バス酔い、疲れ、冷え、脱水症状、飲酒などとの併発によるものがほとんど。富士山があと500m高かったら多くの人が登れないでしょうし、あと500m低かったら、多くの人が高山症状を自覚することはないでしょう。ちなみに、富士山で高山病がなんともなかった、って言っている人はただ鈍感なだけですから。

ほかにも多くのファクターがありますが、これらのものすべてが富士山が世界中の4,000m近くの山の中で最も簡単な山のひとつにしてしまっています。自然環境そのものよりも過度に登り易い山になっているのです。

繁忙期以外の富士山ではこれらのファクターが消える

夏の富士山の登山期間は、登山口によって違いますが、7月から9月の初旬まで。10月になると降雪、積雪となることが多いですし、6月末まで雪が残っていることがほとんど。ということは、開山期間の2か月以外はほぼ雪に覆われた山なのです。

その2か月以外は、ほとんどの山小屋があいていませんし、登山者も激減します。つまり、一般的な4,000m峰に戻るのです。

人為的に過度に登り易くなっているファクターを除くと、富士山はかなり難易度の高い山になります。そもそも絶妙な標高といっても、日本で二番目に高い北岳(3,192m)と比べて600mも高い。海が近いため、風が強いことが多く、天候も変わりやすい。樹林帯が5-6合目で終わるため、風をよけられる場所もない。

私は富士山350回登っていますが、天気の変化と風の強さはかなりのものです。世界中に、海にこれだけ近い4,000m峰ってないんじゃないでしょうか。キリマンジャロは10回ちょっといっていますが、内陸にあるため、天気も安定、風もそんなに吹くことがありません。キナバルも海に近い山ですが、富士山よりは遠く、台風以外は比較的天候安定しています。

海が近いと、太陽の熱での温度の上がり方が陸と海で違うため、午前は吹きおろし、午後は吹き上げになることが多い。午後に海からの湿度の高い空気が吹き上がってきて、雲になり、一気に天候が崩れることが多い。稜線ではない独立峰のため、遮るものもなく、強風、悪天に一気に変わることもあります。

海に近い、4,000mの独立峰。自然環境で考えれば、雪をかぶっていなくてもなかなか手ごわい山なのです。

雪をかぶるとその風が難易度をはるかに上げる

雪シーズンになると、この風がかなりの悪さをします。

もちろん、登山中の強風。人が飛ばされるほどの強風になることも多くあります。独立峰で遮るものがないため、風が弱まることなく山にぶつかってしまうのです。

その風が降った柔らかい雪を飛ばしてしまい、氷のような斜面をむき出しにしてしまいます。これが本当に怖い。そして、その氷の斜面は、森林限界が低いため、五合目近くまでむき出しになってしまいます。途中で止まらない。絶対止まらない。

昔、冬に120リットルザック担いで、頂上まで登った時のこと。頂上ついて、ザックを置いて、不意に目を離したすきに、風であおられて、ザックがゴロン。吉田大沢を転がり始めたザックは止まることなく見えないところまで落ちていきました。その時のザック、20キロ以上はあったと思います。

あーぁ、全部買いなおさなきゃ、と気落ちしていた私。それでも仕方なく、空荷で下山していると、大沢の5合目と6合目のトラバースのあたりに青い塊が。。。。私のザックでした。頂上から五合目まで何に引っかかることもなく。これが人だったら、、、、想像しただけで怖くなります。

いつもいつもそういう状況ではないけれど

ずっとそういう状況ではない、ということも、問題をさらに複雑にしています。

どんな山でもそうですが、たまたまいい環境で登った人から話を聞いた人がチャレンジ、という危険な連鎖が起こります。冬の富士山行ってみたけど、大したことなかったよ、とかアイゼンとピッケルさえ持っていけば大丈夫よ、と。

でもね、それは偶然その状況だったのか、それが普通なのか、そういう状況じゃなくなったときに逃げられるのか、わからないじゃないですか。だから、1回だけの経験談を語るのも、それを基準に山に行くのも危険極まりない。少し自慢が入っての大したことない、となることも多いわけで、より危険です。

天候による判断、山の状況の判断、悪天の多さ、いろいろ総合的に考えて、雪の富士山は夏の富士山からも想像つかないぐらいレベルが高いですし、日本の雪山の、いや、世界の雪山の中でもかなりレベルが高い。天候が変わりやすいということは、偶然いいときもあるということです。でも、偶然に頼って登山をするにはリスクが高すぎる山です。雪の富士山じゃなくても、いい雪山いっぱいあります。

300回以上富士山に登っている私が言いますよ。富士山は登る山じゃなくて見る山だ、とよく言われます。夏は富士山は登って、富士山「から」見てください。あの高さから海が見えて水平線が広がっている山なんて世界中になかなかないですから。十分景色を楽しめるでしょう。冬は、おっしゃる通り、見る対象です。日本のロープウェイがあったり小屋が営業していたりする山から富士山を見てください。存在感が格別ですから。