登山道は誰のものか?管理責任は?整備費用は誰がどう捻出すべきか?

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先日、Yahoo!の記事にこんなものがありました。

登山道の整備、コロナ禍の壁 担う山小屋も手が回らず(Yahoo!)

この記事、元記事は朝日新聞デジタルです。朝日新聞の登山記事といえば、近藤幸夫記者。前出のYahoo!の記事では大事な後半部分(「広告に活路 でも景観も」)が読めないので、ぜひ元記事で。

登山道の整備、コロナ禍の壁 担う山小屋も手が回らず(朝日新聞デジタル)

そのままでは後半が読めませんが、朝日新聞の無料会員になれば最後まで読めます。

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いまだ残る台風19号の爪痕

上記の記事は、北アルプス・八ヶ岳のコロナ禍での登山道整備の話ですが、実は、日本の登山道はその前の2019年10月の台風19号で大きな被害が出て、まだ完全には復旧していません。

特に、八ヶ岳・南アルプスの被害は甚大でした。

新型コロナウィルスの影響で、2020年の営業を諦めざるを得なかったいくつかの山小屋は、直接の新型コロナ対策だけが問題ではなく、新型コロナのせいで、道路の復旧が間に合わなかった、と聞いています。実際、北沢峠・広河原間など、いまだ開通に不透明なところもあります。

コロナ禍、自然災害含め、登山道の管理責任を誰が持ち、その作業を誰が請け負っていくのか、と言うことを考えていかなければなりません。

各地で違う管理者と整備者

よく、登山道の整備の話が出ると、上記の記事のような日本アルプス・八ヶ岳の、営業小屋のある山域の話が出て、「山小屋の負担が大きすぎる」と言うような論調になります。その話自体に異論はないのですが、営業小屋がない山域も日本にはたくさんあり、地域ごとに違った形態だ、と言うことは知っておいた方がいいでしょう。

例えば、営業小屋のない屋久島ですが、6つの無人小屋があります。無人小屋なので、定常的に人がいる必要はありませんが、簡単な補修や清掃、トイレの汲み取りなど、人の手はある程度かかります。そして、6つの小屋の手入れしなければならない頃合いもそれぞれ違うため、現場を知っている人がコントロールする必要があります。

屋久島の場合は、国(環境省)と県が主に財源を拠出していて、その業務を屋久町を介して、観光協会が請負い、ガイド部会で実際の作業を行なっています。小屋の建て替えや大規模補修になると、県が主体となって、土木業者が受注して工事を行なっています。

もう一つ例を挙げましょう。富士山です。

記事によると、コロナ禍で富士山の登山道を閉じる、と決定したのは県知事、その閉鎖を求めたのが山小屋、ということになっています。

私がガイドをしていた時の経験でも、登山道の整備は、シーズン開始前と終了後に県の予算で土木業者が入ってやっていた記憶があります。一方、シーズン前の雪かきなどの整備はガイドがボランティアで行なっていました(今はどうなっているかわかりません)。

問題はコスト負担だけではなく、誰が意思決定者か

上記の記事をまとめると、次のようにまとめられます。

本文にもある通り、重機が入りにくい山域はどうしても人の手に頼らざるを得ず、近くにいる山小屋従業員のボランティアに近い手作業に頼ってきました。その結果、”登山道の整備や遭難者救助など安全登山を支える公的な役割”(本文ママ)を山小屋に担わせてきたのが実情です。

もともと営業小屋のない屋久島や、地域行政にとって経済的観光資源としての側面が強い富士山などは、県や国が主体となり予算を割く体制を作ってきました。一方、誰でもすぐに行ける訳ではない北アルプスや八ヶ岳では、山小屋を中心として、警察・消防・地域行政・遭対協などが加わって絶妙なバランスで安全を守ってきました。ただ、そもそも山小屋の規模はカバーするエリアと比例している訳ではなく、そのバランスを永続させるには無理があります。

今回、県が危機感を持って山小屋に補助金を出したのは、大きな一歩です。この記事の通り、予算が組み込まれれば、それもまた大きな一歩でしょう。ただ、もっと大事なのは、県担当者の思考回路が、「山小屋が行なっている登山道整備を県が補助する」から「県が主体となって意思決定し、山小屋に依頼する」という風に変わることだと思います。

請け負うのが山小屋、というのが正しい形か

多くの山小屋は、株式会社の形をとっていても、ほぼ家族経営です。

そのこと自体を否定も批判もするつもりはありません。むしろその形で登山者は助けられている部分が大きいと思います。

ただ、その形態で”登山道整備のための補助金”を出しても、登山道整備とそれ以外を別会計で管理する、とはなりにくいでしょう。かといって、その深い地域に全くの素人土木業者が入って行って整備するのも無理があります。

周辺地域の山小屋とガイド、地域の山岳会を含めた集まりを作って、そこで請け負うような形ができて、仕事を割り振ることができれば透明性も高まり、予算を通す上で県民にも説明がつきやすいんじゃないでしょうか。

登山道は国立公園や国定公園の中のインフラであり、国の資源です。山小屋の一存でクオリティ差が出てしまうのはいかがなものかと思います。全体の予算の地域への割り振りは県、もしくは国が主体的に行い、地域内での人手の手配を行う団体が執行する、という形は、屋久島と似ています。すぐに変えられる話ではなくとも、不可能な話ではないでしょう。

私の知り合いのガイドさんが、「大手コンビニチェーンのお店が提供するサービスと同等のものを、家族経営の酒屋さんが独力で提供する事は限りなく不可能に近い。 そして大手コンビニであっても、交番や市役所の完全な代替にはならない。今の所。」って書いてましたが、まさに、だと思います。

八ヶ岳の赤岳鉱泉とマムートの取り組みも、取り組み自体はとても賛成でいい話だと思います。一方で、メーカーとの付き合いがうまい山小屋の周辺部分の登山道はしっかり整備されて、付き合い下手な山小屋の周辺の登山道は後回し、とならないような仕組みづくりが必要です。登山道をインフラかつ観光資源と捉える以上、行政が主体になって行うのが筋でしょう。

こんなリンクもご参考に

この問題は一朝一夕に解決する問題ではなく、色々な形を模索しなければならないと思います。そのために、まずは我々登山者一人一人が問題を知ることが大事。

昨年の週刊ダイヤモンドの記事は必読でしょう。

山小屋主が訴える国立公園管理の窮状、国の管理責任はどこへ?

日本山岳遺産基金の記事も参考になります。

どうなる !? 日本の登山道

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経営と登山のあいだ
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