富士山の「頂上ご来光」のための渋滞状況を緩和しなければならないのではないか、という記事に多くの反響をいただきました。
では、実際、渋滞状況はどうなっているのでしょうか?年々悪化している?緩和されてきている?なんとなく死亡事故とか起こって、どんどん渋滞がひどくなってきていて、昔はこんなじゃなかった、みたいな思考になってきていませんか?まさにファクトフルネス。データもあるので、実際富士山の渋滞はどういう経年変化をたどっているか調べてみましょう。
まだ読んでない人は、ぜひ。
データはどこにある?どんなデータ?
登山者数のデータは、環境省・関東地方環境事務所のHPで公開されています。
平成17年から毎年データを取ってくれています。台風などで欠損期間がある年もありますが、全体推移をみるには十分有意でしょう。
一つだけ気を付けておかなければならないのが、カウンタの位置。吉田口は8合目太子館、富士宮口は8合目池田館、須走口は本7合目見晴館、御殿場口は7合5勺砂走館にあります。
カウンタが置かれている山小屋、どれも山小屋の中で一番高い小屋でも低い小屋でもないんですね。何が言いたいかというと、「夜通し弾丸登山者の人数」や「ご来光直前の頂上での混雑具合」を類推するには根拠が弱いということです。8合目を夜中に通過した人は、7合目で宿泊した人かもしれないし、5合目から夜通し弾丸登山をしている人かもしれない。頂上直下の混雑を推計しようにも、8合目は前日の日中に通過、上に宿泊している人で頂上が混雑することもあり得ます。だから、時間帯別の通過時間があまり意味がありません。
ぜひ環境省様には、それぞれの登山道の5合目出発と9合目あたりの通過のカウンタを置いてもらいたいものです。そうすれば、より必要なデータに近づくことができるでしょう。
富士登山者数は減ってる?増えてる?
そして、こちらがここ10年の登山者数の推移。
2018年は、欠損期間が長くあるため、独自補正を加えています。(富士宮市役所発表の数字から推計)
2013年が富士山の世界文化遺産登録。これを見ると、富士山が世界遺産でにぎわったようには見えません。むしろ前年対比マイナス。「富士山が世界遺産になってから人多いでしょう?」っていうよく聞く言葉が、ただの感覚値で現実と離れているということになります。
2007年から2008年にかけて、激増している理由は分かりません。が、2008年ごろから見ると、登山者数は、世界遺産登録年周辺をピークに逓減してきている、と言えるでしょう。
混雑をどう推計?混雑してきている?緩和されてきている?
先ほども書いた通り、今回のデータから「ご来光直前の頂上直下の混雑」を推計するのは難しいです。ただ、日ごとデータはありますので、混雑日のピークの推移、なら出せます。
なんとこの右肩下がりのグラフ!私もびっくりしました。前回の投稿でも、1日1万人登る、と書きましたが、1万人越えたのは2013年が最後、昨年は7700人弱です。一番多い吉田口でも、4864人。2012年の6831人からすると3割も減っているのです。
環境省のHPでも書かれている通り、マイカー規制の期間の延長、弾丸登山のリスクの周知などで、確実に渋滞は緩和されてきています。これは関係者の方々の努力の成果と言っていいのではないでしょうか。渋滞が引き金の落石での死亡事故が起こり、継続的に渋滞緩和について考えていかなければならないのは事実ですが、確実に状況はよくなっている。それをこのグラフは顕著に表していると思います。
レンタルも安全登山に一役買っています!
レンタルも安全登山に確実に一役買っています!
昨年、弊社のレンタル利用されたお客様が41,735人。
私が富士山ガイドを始めた20年前は、ビニルガッパ、スニーカーのオンパレードでした。五合目で雨具さえ持っていないお客様に五合目のお土産物屋さんでビニルガッパを買ってもらう、みたいなこともよくありました。
それが、最近登ってみると、みんな登山靴だし、ストック持っているし、ショートスパッツをちゃんとつけてるし、変わったなぁ、と。
20年前、装備の甘いお客様が多くて、業界は啓蒙活動が必要、って言っていました。でも初めてだから不安な人が多いんですよね。山をなめててビニルガッパを持ってきたわけじゃなくて、知らないからそうなった。だから知ってもらおうと、ツアー会社と提携して、申込時にレンタルのセットを案内して、どういう装備が必要かを知ってもらうようにしました。そのこともあって、レンタルしてくださっている人たちはもちろんですが、レンタル利用しない人の装備のレベルも上がってきたと感じています。
渋滞緩和も装備の充実も道半ばではあります。が、確実に良くなってきています。
データで読み解くと、思っていたのと結構違ったんじゃないでしょうか。
私は違いました。過度に悲観して批判的にならないようにしなければ、と思ったデータでした。